気は満ちている。
世界は気であふれている。
なにそれ?
その気のおかげで、こうして生きていけている。呼吸さ。
この世界から、生ける力を頂いていると言おう。
吸ったり吐いたりすることで、気を頂いてるんだね?
そうだよ、さらに、その気を自分のものにするためには、やはり呼吸の方法さ。
特に深い呼吸をすることによって、自然の力を自己に蓄えることができるんだ。
まずは、力を吸うことで、気を体内に溜め込む。
それを、吐くことによって、古い気を出す。
この循環される気こそ、生きる気力でもある。
だから、呼吸を極めるのさ。
灰狼の騎士

旅人は皆、灰狼の騎士を恐れた。
それは剣の腕が優れているからではない。
彼が現れる場所には、決まって争いの跡だけが残されていたからだ。
焼け落ちた村。折れた槍。風に揺れる旗。
それでも不思議なことに、彼の剣が人を斬ったという話を聞いた者はいない。
ある者は「災いを呼ぶ男」と囁き、またある者は「災いを終わらせる男」だと語った。
真実を知る者はいない。
騎士は何も語らず、ただ朽ちた道を歩き続ける。
肩に積もる灰も、風に裂けた外套も、長い旅路を物語るだけだった。
彼が探しているものは、王の財宝でも、名誉でもない。
誰にも知られることなく失われた、一つの約束だった。
その約束を果たすまでは、剣を地に置くことはない。
やがて夕暮れが訪れる。
赤く染まる空の下で、騎士は静かに目を閉じる。
そして再び歩き出す。
まるで、自分の行き着く場所など、とうの昔に決まっていたかのように。