
「今日は何を描こう。」
そう考えながら机に向かう日もあります。
しかし、私の場合は何を描くか決めてからペンを持つことはほとんどありません。
白い紙を前にして、とりあえず一本線を引く。
その一本の線が次の線を呼び、さらにもう一本の線が新しい形を生み出していく。
そんな描き方を続けています。
今回のイラストも、最初から少女を描こうと思っていたわけではありません。
動物を描こうとも、森を描こうとも決めていませんでした。
ただ、ペンを走らせるうちに、大きな獣の輪郭が現れました。
その隣には別の生き物。
さらに奥には小さな旅人のような人物。
気付けば、一枚の紙の上に「旅」が始まっていたのです。
私はこの瞬間がとても好きです。
完成を目指して描くのではなく、まだ見たことのない世界を探検しているような感覚があります。
ダークファンタジーというジャンルには、独特の魅力があります。
暗い世界。
滅びゆく文明。
巨大な獣。
静かな森。
朽ちた遺跡。
こうした要素は多くの作品で描かれています。
ですが、私が惹かれるのは、その中でも「説明されない世界」です。
なぜこの獣はここにいるのか。
少女はどこへ向かうのか。
誰も答えを教えてくれません。
それでも、その世界には確かな歴史が存在している。
そんな余白のある物語に強く惹かれます。
だから私の絵も、説明を減らすことを意識しています。
見る人が自由に物語を想像できるように。
今回描いた少女は、私は「巡礼者」だと考えています。
世界の終わりを歩き続ける旅人。
王でも英雄でもありません。
ただ世界の記憶を集めるためだけに旅を続ける存在です。
彼女の周りにいる獣たちは敵ではありません。
古い森に住む精霊であり、旅の案内人でもあります。
大きな狼のような獣は危険を察知し、小さな生き物たちは失われた道を示します。
言葉は交わしません。
それでも互いを信じ、長い旅を続けています。
そんな情景を思い浮かべながら、線を重ねていきました。
今回のイラストは、ラフに近い描き方をしています。
線は整理されていません。
丸を何度も描き重ねた跡も残っています。
ですが、私はこうした線が好きです。
完成された線よりも、その瞬間にしか生まれない勢いがあります。
偶然できた形が獣の耳になり、植物になり、雲になっていく。
計画していたら絶対に描けなかった形が、ラフの中にはたくさん眠っています。
だから私はラフをとても大切にしています。
ラフは未完成ではありません。
世界が生まれる瞬間を記録した、一番純粋な作品だと思っています。
最近は資料を見ながら描くこともあります。
人体や動物の構造を学ぶことも大切です。
しかし、資料だけでは描けないものがあります。
それが「空気」です。
静かな森の匂い。
冷たい風。
遠くで鳴く獣。
そうした目には見えないものを表現するには、自分の感覚を信じるしかありません。
だから私は、インスピレーションだけで描く時間を意識的に作っています。
考えすぎると線は止まります。
でも、感じたままに描けば、線はどこまでも進んでいきます。
この作品にタイトルを付けるなら、「獣たちに導かれし巡礼者」。
きっと彼女は今日も、誰にも知られていない森を歩いています。
世界が滅びても、森が朽ちても、獣たちが姿を変えても、その旅だけは終わりません。
一枚のイラストには、一冊の小説ほど多くの言葉はありません。
それでも、一本一本の線には物語があります。
これからも私は、インスピレーションを頼りにペンを走らせ、まだ誰も見たことのないダークファンタジーの世界を描いていきたいと思います。
それが、「高野良太 ― 世界の断片 ―」という作品群の核であり、一枚のラフから新しい物語が生まれる瞬間なのです。